臨江閣

渡辺明竜王対羽生善治棋聖の竜王戦第3局は、後手番の渡辺竜王が完勝。このシリーズ待望の初白星を挙げ、対戦成績は渡辺竜王から見た1勝2敗となりました。

羽生棋聖サイドに少々肩入れする立場としては連勝の勢いそのまま一気に王手!と行ってほしかったところですが・・・、タイトル戦という観点で見れば接戦になってきたことでこれからの戦いが益々盛り上がることでしょう。

さてこの竜王戦第3局、私もこの数ヶ月の間ずっと楽しみにしていた地元前橋での開催でした。

当日は現地で開かれた一般ファン向けの大盤解説会に出かけてきましたので、その様子などをざっとレポートしてみたいと思います。

あ、例によって将棋の内容にはあまり触れられない内容ですのでご了承くださいね。

大盤解説会@臨江閣

臨江閣

竜王戦第3局の会場は臨江閣。臨江閣は明治時代に迎賓館として建てられた近代和風の木造建築物です。

臨江閣は近代和風の木造建築で、全体は本館・別館・茶室から成り、本館と茶室は県指定、別館は市指定の重要文化財となっています。
 本館は明治17年9月、当時の群馬県令・楫取素彦(かとり もとひこ)や市内の有志らの協力と募金により迎賓館として建てられました。また茶室はわびに徹した草庵茶室で、京都の宮大工今井源兵衛によって明治17年11月に完成しました。
 別館は明治43年一府十四県連合共進会の貴賓館として建てられた書院風建築です。
via: 群馬県前橋市|臨江閣

臨江閣は前橋公園やるなぱーくといった家族でも楽しめる施設と隣合わせていて、私もそちらに遊びに行ったついでに今まで何度か建物内にも足を運んだことはありました。

でも今回改めて訪れてみて、この建物自体の風情の良さはもちろん、建物を取り囲む庭園の景観、別館2階に広がる180畳の大広間(広間部分150畳+舞台部分30畳)など、将棋の催しとしてここを使わずどこを使うと言いたくなるほど設備も雰囲気も整った名所だなあ・・・と印象を新たにしました。

今回、群馬県内での竜王戦開催は18年ぶりだったんだそうです。(前回開かれた場所は伊香保温泉「福一」)

将棋=旅館 → 旅館=温泉 → 温泉=群馬 という勝手なイメージからすると、相性の良さそうな群馬でそんなに開かれていなかったのがちょっと意外な感じ。

しかし、こんなにいい場所があるなら今後はもっと積極的に誘致していきましょう!(関係者の皆さんは大変でしょうが・・・)

大盤解説会場の大広間
大盤解説会場となった2階大広間

ほんわか系コンビによる癒やし解説

大盤解説会の解説は千葉幸生六段に聞き手は岩根忍女流三段という組み合わせ。

千葉六段はいつも笑顔な見た目のままに物腰は柔らか、言葉の使い方も平易でとても聞き心地の良い解説です。一方の岩根女流三段もニコニコほんわか系の聞き手で、この日の会場はそんな二人の波長が合った大変和やかな雰囲気に包まれていました。

所々で休憩を挟みつつとは言え、お二人とも終日立ちっぱなしの解説で大変お疲れ様でした!

ケーキをもぐもぐする羽生さん
午前のおやつでケーキをもぐもぐする羽生棋聖

指導対局をうっかり見落とし

この日、希望者が抽選で指導対局が受けられるという催しがありました。

ろくに将棋の勉強もしてない身で恐縮ながらこんな機会はなかなか無いし!ということで、自分も思い切って指導対局を申し込んだまでは良かったものの、なんとここで対局時間を間違えすっぽかしてしまう!という大悪手を指してしまいました。。(言い訳をさせてもらうと、掲示板に貼り出された対局時刻が見方によっては2種類あって、その違う方の時間と自分は勘違いしてしまったのです。)

お昼から戻ってすでに始まっていた指導対局を眺めながら、「あれ、あの席空いてるなーキャンセルの人かなー」とか思ってたのが、まさか自分のせいだったとは後で知って恥ずかしいやら申し訳ないやらでした。関係者の皆さま、大変失礼いたしました。

なお、指導対局には佐々木慎六段、田中悠一五段、阿久津主税八段(第3局副立会人で来られてましたが申込者多数のため特別に参加されたとのこと)が登場。

棋士なら当たり前なのかもしれませんが改めて10面指しや9面指しをこなしている姿を目の当たりにすると、一体この人たちはどんな頭の構造してるんだろか・・・とその凄さを実感させられますねえ。

冴え渡る藤井九段の爆笑トーク

午後の解説には、第3局の立会人である藤井猛九段がゲストとして会場に来てくださりました。群馬のヒーローの登場に会場も盛り上がります。

立会人の仕事について、前日の食事会の様子、中学生時代に参加した臨江閣での将棋大会でのこと、これまでの思い出の一局など・・・色んな話題をユーモア交えて(と言うかほとんど漫才みたい笑)会場を大いに沸かせていました。

特に子どもの頃近所のおじさんたちと将棋を指していたくだりで、当時の藤井九段の振り飛車に対してダメ出しをするおじさんの話がとにかく面白すぎて涙が出るほど笑わせてもらいました。

マシンガンのようにひたすら話しまくること1時間余り、実に楽しい一時でした。やっぱり藤井九段最高ですね。

次の一手正解者プレゼントの行方は・・・

そういえば午後には、当選者に抽選でプレゼントがあたる!という次の一手クイズも行われました。

後でもちょっと触れますが問題になったのは後手が△5二飛と指した局面で、解説の千葉六段の推奨手ということもあって回答者約140人中正解が約100人。私も千葉六段の意見に全面的に乗っかって正解することができましたw

100人もいるのかあ、、と諦めムードが漂いかけましたが、それに対してプレゼントの数がなんと32点という大盤振る舞い!(渡辺竜王・羽生棋聖・藤井九段・阿久津八段・千葉六段・岩根女流三段の色紙各5枚ずつ、『3月のライオン』最新刊が2名)約3分の1の当選確率でいやが上にも期待が高まります。

ところがしかし、当選者のくじを引けども引けども自分の名前は呼ばれません。

最後には「もう色紙が無理なら『3月のライオン』でもいいから!」(もちろん『3月のライオン』を見下してるわけじゃありませんのであしからず・・・)というすがるような願いもむなしく、プレゼントの当選はなりませんでした。

ちょうど私の席の両隣の方が羽生棋聖の色紙、阿久津八段の色紙を見事にゲットされてたのが何とも羨ましかったですw

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佐々木慎六段と田中悠一五段の同門コンビ

夕方頃に、千葉六段との交代で佐々木慎六段と田中悠一五段が解説に登場。

実はこのお三方とも師匠が関根茂九段という同門同士なんだそうですが、その関根九段の奥様が群馬県前橋市出身の関根紀代子女流。

また聞き手の岩根女流も現在前橋在住であったり、立会人の藤井九段は沼田出身だったりと、実はこの日は群馬繋がりだらけのメンバーが揃った一日でもあったわけです。(まさか高崎在住のもう一人のヒーローまでサプライズ登場!?とかちょっと期待してしまいました・・・。)

鋭いツッコミを見せる佐々木六段とそれに明るく対応する田中五段の掛け合いがほっこりする楽しい解説でした。

渡辺竜王が勝利をつかむ

さすがに将棋の内容にもちょっと触れておきましょうか。。

昼食休憩の辺りまでは、まだまだ形勢は混沌として解説の千葉六段も今日は長くなりそうという見解を出していたような状況でした。

昼食休憩時の局面
昼食休憩時の局面

しかし、渡辺竜王が遠見の二枚角から羽生陣を伺っていた中盤の辺り、△4五歩に対して▲3六金と寄った手が次の△5二飛からの猛攻を許すことになり、大勢を決してしまったようです。

局面図
【図は78手目△5二飛まで】

こちらの動画解説が分かりやすかったのですが、△4五歩に対して▲5六金に寄っていれば形勢難解でまだまだ勝負はこれからという展開もあり得たようです。いやー将棋って本当に奥深い。級位者にはさっぱり分かりません。。

その後、一旦形勢が傾いてからはそのまま渡辺竜王が危なげなく押し切って、待望のシリーズ初白星を挙げました。

終局は見ている者がえっ?と意表を突かれるような早めの投了で、何とも本局における羽生棋聖の苦しい心境が伺えるようなシーンでした。

投了図
【投了図は108手目△3一同銀まで】

詳しい対局内容はこちらの棋譜中継ページよりご覧ください。

両対局者が会場に降臨!

終局後、関係者の計らいで両対局者が会場に来てくださりました!対局直後で心身ともお疲れであろうところを本当にありがたいような申し訳ないような・・・。

二人が現れた瞬間、会場の熱気は一瞬にして沸騰。将棋ファンにとって憧れの羽生棋聖や渡辺竜王と同じ場に居合わせたみんなの興奮が伝わるようなすごい場内の空気でした。

以前、渡辺竜王は電王戦の大盤解説会でお見かけしたことがあったんですが、羽生棋聖を見るのは私は初めて。この大盤解説会に参加した大きな目的の一つが羽生棋聖を拝見することでもあったので、その瞬間はとにかく嬉しくて嬉しくて・・・胸が詰まるような思いでその姿をずっと眺めていました。後から振り返ると何の話をされていたかほとんど覚えていませんでしたw

渡辺竜王の「大盤は動かしてもらうより自分でやった方が早い」といった旨の話をどこかで聞いたことがあったんですが、この日もまさにその話のまま自身で解説に大盤操作にとテキパキ動かれていました。サービス精神に富んだ渡辺竜王らしさが出ている気がしました。

会場を後に

両対局者が感想戦を行うため対局室に戻られた後、大盤解説会もお開きとなりました。

まだあの二人がこの中で感想戦してるんだよなぁ、、といった名残惜しいような余韻のような火照る気持ちを抑えながら臨江閣を後にしました。

もう冬の足音がすぐそこまで近付いているような一面暗闇の中、外から眺める臨江閣にはまだ対局の火がふつふつと燃え続けているような灯が浮かんでいました。

臨江閣

第4局は11月23、24日に新潟県三条市の「嵐渓荘」にて行われます。

次局以降も熱のこもった素晴らしい対局がきっと繰り広げられることでしょう。

おわりに

これだけの大舞台にあたり、準備・運営にあたった関係者の方々の苦労は大変なものがあったろうと思います。

でもおかげ様でこの一日本当に楽しく、とても贅沢な時間を過ごすことができました。この場を借りて感謝の気持ちを伝えさせて頂きます。

冒頭の方にも書きましたが、地元の一将棋ファンの気持ちとしてはぜひまた臨江閣にタイトル戦を招致して欲しい!

こういった出来事をきっかけに、少しずつ町のあちこちで将棋を指す人や場所、催し物が増えていくような、前橋がそんな町になっていくと嬉しいなあ・・・と密かに願っています。

この記事を書いた人

ko31

電王戦をきっかけに20年ぶり以上に将棋熱が再燃した、観たり指したりするのが好きなヘボ将棋ファン。
群馬在住繋がりで藤井九段の本で振り飛車勉強中ですが、根っからの三日坊主につき&頭の回転が悪くなかなか棋力が向上しません。将棋ウォーズによく出没しています。
>>詳しいプロフィールはこちら

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